「ただ思ったことを口に出すだけでいいんだよ」
「え?」
「遠慮なんていらないし、綺麗事も言わなくていい。だって俺は誰にでも優しくしてるわけじゃないし、優しくしたいと思ってる人にしかしないからね?だから千代ちゃんは申し訳ないとか変に気兼ねしないで、思ったことをそのまま俺に伝えてくれるだけで十分なんだよ」
冨羽さんはそう言いながら、小さな器の形をしたコーンに乗ったアイスを一つ私に手渡した。
コロンとしたフォルムのかわいいバニラアイスだった。
どうしていいか分からず彷徨く私に、「溶けちゃうから早く食べてみて!」と急かす彼に言われるがまま、添えられていたスプーンで一口食べた。
「……美味しい」
冷たくて、濃厚で、ほんのりと甘いアイス。
久しぶりに味がしたような気がした。
これまで何を食べても美味しいと感じることができなかったことが嘘みたいに、濃厚なバニラの味が口の中に広がっていく。
「今まで何も経験できなかったならさ?これから俺といろんなことしてみようよ」
「……でも」
「千代ちゃんがやってみたかったこととか、俺がやりたいこととか、全部一緒に経験しよ?今からだって全然遅くないよ」
冨羽さんはいつもの人懐っこい笑みを浮かべて、私にスッと手を差し出す。
心底不思議な縁だと思った。
たまたまその日勢いで家出をして、偶然目に留まったバーに入って酔い潰れたあとに出会った冨羽さん。
まだ彼のことをほとんど知らないのに、差し出された手をゆっくりと握った瞬間、心臓の鼓動が早くなっていくのが分かった。
何よりも、冨羽さんにこの大嫌いな自分の名前を呼ばれることが嫌だと思わないのが何よりも不思議でたまらなかった。



