私の買い物を待っている間に有名なアイス屋を調べていたらしい冨羽さんが選んだお店についた途端、ふいにそう言って私と向かい合った。


 「何を、ですか?」

 「千代ちゃんがもう少し、俺に心を開いてくれること」

 「!?」

 「一応俺たち、同居人でしょ?だからもう少し君が俺に心を許してくれたら嬉しいなって思ってる」

 「それは、その……」

 「俺からは一切何も聞かないし、何も探らないし、何も見ないから安心して?千代ちゃんのほうから俺に歩み寄ってくれるのを、俺は首を長くして待ってる」

 「……」

 「だからこれは全部俺の必死の努力だってこと」

 

 別に冨羽さんに自分のことを語るのが嫌なわけじゃない。

 ただ、父のことを話せばきっとこんな異常な親子の面倒ごとには巻き込まれたくないと思われるに決まっている。



 そうすれば今借りているマンションを追い出されることになるかもしれない。

 それが今の私にとっては何よりも怖い。



 「……私、今まで本当に何も経験してきてないんです」

 「うん?」

 「友達と飲みに行ったことも、家族以外と旅行へ行ったことも、こんなふうに買い物のあとに寄り道して誰かとアイスを食べることも」

 「……」

 「だから、その、今だってどうしていいのか分からないんです」



 父は毎年会社の人や私を連れて海外旅行へ連れていった。

 ブランドものの新作の洋服やバッグを気まぐれでいくつか購入し、それを私にプレゼントした。

 月に一度は必ずデパートでの買い物を楽しみ、そのあとレストランで食事を摂って、記念に店内で写真を撮ってもらう。



 一見裕福で素敵な家庭に見えるけれど、それらはすべて私のためを思ってのことではない。

 ただ単純に、父が思い浮かべる理想の家族像を演じさせられているだけに過ぎなかった。



 父から本当に私の欲しいものを尋ねられたことなんて一度もない。

 買い物の帰りにこんなふうにアイスを食べたり、寄り道して二人きりで話をしたこともない。



 まるで何かの行事ごとのように、仕事の一環のように、父の理想に付き合うだけのつまらないものだった。

 どれだけ評判がよくて豪華な食事も、私は一度だって美味しいと思えたことはなかったし、何一つ記憶にすら残ってはいない。