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「戻りました……」
「おかえり、千代ちゃん」
「え?」
誰もいないだろうと思っていた冨羽さんのマンションに帰ると、この家の持ち主がリビングのソファに座って待っていた。
四十畳以上あるリビングダイニングに見合う大きなL字ソファに腰掛けながらテレビを見ていた冨羽さんは、私が帰ってくるとすぐにこちらへやって来て、私のコートとバッグを持ってハンガーに掛けてくれる。
「ねぇ、千代ちゃん。今時間あったりする?」
「……えぇ、まぁ」
彼は私に何も聞かない。
『どこへ行っていたの?』とも、『何をしていたの?』とも。
『仕事は何をしているの?』とも、『どうして帰る家がないの?』とも。
「じゃあさ、これから一緒に千代ちゃんの日用品買いに行かない?」
「日用品?」
「だって今あるものだけだといろいろ足りてないでしょ?お風呂の石鹸とかシャンプーだって俺専用の男物しかないし、洗濯物の洗剤とか柔軟剤だってやっぱちゃんと女の子が好きな匂いのほうがいいでしょ?すぐ出張が入っちゃったから気にかけてあげられなくてごめんね?」
……意外だった。
彼がここまで私のことを気にかけてくれているなんて。
けれど、正直今の私にはシャンプーが男物であろうと、衣服の匂いがなんであろうと、そこにこだわりが持てるほどの余裕はない。
五年間働いてきた分の蓄えがあるとはいえ、いつ何があるか分からない今の私の現状を鑑みると、そこにお金をかけている場合じゃないのが本音だった。
「いえ、私は不自由していないです。本当に、お部屋を使わせてもらっているだけで……もう」
「そんなこと言わずに、ね?ここは家主からのプレゼントってことで」
「いえ、そんな……っ!プレゼントだなんて頂けません」
「大丈夫。俺ね?こう見えてあんまり普段は無駄遣いしないタイプだから。だから千代ちゃんの日用品を揃えてあげることくらいはできるから安心してよ」



