恐る恐るそのメールを開封すると、なんの飾りっ気もない淡々とした内容が綴られているだけだった。




《家に帰っていないようだが、何をしているんだ?

まぁ、結婚前に最後の自由を味わっておきたいという気持ちは俺にも分かるから、今回だけは許してやる。

だがな、一ヶ月後の両家の顔合わせには絶対に来てもらうからな。

これまで一切金に苦労することなく、好きな大学まで出てのらりくらりと生きてこられたのは誰のおかげなのかを、一人になってよく考えなさい》




 怒りしか込み上げてこない文面に心底嫌気がさす。

 私は急いで父からのメールを削除して、鞄の中にスマホを投げ入れた。



 親が決めた結婚が迫り、いよいよ会社まで辞めさせられてしまった。

 どれだけ必死に私が逃れようとしても、あの人はこんなふうに私を追い込んでくる。




 「(考えたくない……っ)」

 自分の未来のことなのに、それを考えるのが怖くてたまらない。


 一ヶ月後には結婚相手との顔合わせ?

 一年後には私は誰かの妻になっているの?

 例え結婚から逃れたとして、仕事も失った今、私の今後はどうなっていくのだろうか。

 

 「……っ」

 鞄を持っている手が震えていた。

 一ヶ月先の自分の未来が、怖くてたまらない。

 私はそんな未来から目を背けて、逃げるように冨羽さんのマンションへと戻った。

 このマンションにいるうちは、きっと父には見つからない。




 『好きなだけこの家にいていいよ』

 彼のその言葉だけが、今の私の唯一の救いとなっていた。