「ちゃんと覚えてんじゃねぇか」

ぶっきらぼうに言った咲也くんはどこか嬉しそうな顔をしていた。


 
 「あの…、咲也くんは今でもピアノを続けているんですか…?」


私は、ピアノ教室を辞めていった後の咲也くんが気になって仕方がなかった。



 「え?ピアノ?小学生以来やってねぇな」


正直、咲也くんの返事を聞いて少しがっかりしていた。


あんなに上手で私の憧れでもあったあの華麗なピアノの演奏。


少し勿体無いとまで思ってしまった。
 

私の返事がなく心配したのか、咲也くんは気を使って、私に質問してくれた。


 「逆に聞くけど空良はまだやってんの?」


もちろんやっている。


でも、その理由を言うのは恥ずかしかったので、返事だけ言うとこにした。


 「やってます、よ!

  これでも10年以上続けてるんですから!」


そう、自慢げに言ってみた。

そうしたら、食いついたのは咲也くんではなく、春さんだった。


 「空良ちゃんすごーーい!!

  ピアノ上手なのー?」


そう聞く春さんは物珍しそうに私をみながら質問してきた。


正直に言って質問の返事はNOだ。

私はピアノを弾き続けている理由は、また咲也くんと会えるかもしれないと言うなんも可愛く、浅はかな理由だった。


だから、ピアノを一生懸命やっている訳ではないし、なんなら、発表会などにも出たことがなく、弾ける曲は限られていた。


 「下手ですよ〜!

  ピアノ、苦手みたいなんです」


そういえばみんな笑い話にしてくれる。

多分、2人も笑い話にしてくれると思い、いつも言っている事を言ったら、2人の顔が険しく、悲しそうな顔をしていた。


 「あのさ、空良ちゃん

  空良ちゃんは、自分が誇らしいと思った事ある?」


急に、春さんは哲学みたいなことを聞いてきた。

最初はふざけているのかと思ったけど、TVやライブで見たこともないような真剣な顔をしていた。


 「ほ、誇らしい…? 思った事ない、です

  だって、10年もやってて、うまくもない
し、曲なんて全然弾けないし
 そんなんだから、笑い話にされちゃうのかなぁ、」


そう言っていた私はどこか胸の奥底に溜まっていた不満が飛び出したような感覚がした。