12月半ば。
未散が一時帰国する日がやってきた。
美蘭は空港まで未散を出迎えに行く。

「未散ちゃん!」
「美蘭! 会いたかったー」

二人は空港の到着ロビーで抱き合い、再会を喜ぶ。

「ふふっ。私達、遠距離恋愛中のカップルみたいだね」
「ほんとにそんな感じ。だって今まで、未散ちゃんとはずっと一緒にいたんだもん。こんなに離れてたの、初めて」
「私もアイミスユーだったよー、美蘭」
「あはは! 未散ちゃん、それ英語でしょ? イタリア語は?」
「ぜーんぜんしゃべれない。だっていつもともが横で通訳……あっ」

しまった、というように顔をしかめる未散に、美蘭は、ん?と首をひねる。

「なあに? ともって」
「ともはともでしょ。友達の友」

するとふいに「呼んだ?」と声がした。

振り返った美蘭は驚いて仰け反る。

「春日さん!? えっ、ちょっと待って。未散ちゃん、『とも』ってまさか……」
「えへへー、なんだろね」
「やっぱり! 春日さんとつき合ってるのね?」
「それはどうかなー?」

とぼけた顔でごまかそうとする未散の肩を、春日がグイッと抱き寄せた。

「未散、認めないとここでキスするぞ」
「ぎゃー! ちょっとやめてよ。日本なんだからね」

そう言って春日の胸を押し返す未散の手を、美蘭は凝視する。

「み、未散ちゃん! その指輪!」

未散の左手薬指には、ひと粒ダイヤのエンゲージリングが輝いていた。
これはもう隠し切れないと思ったのか、未散が話し出す。

「美蘭、聞いてよー。この人ってば、美蘭のこと好きだったんだよ。で、高良さんが美蘭にプロポーズした時、未練たらしくブツブツ私に愚痴ったの。だから言ってやったのよ。『男のくせに女々しいこと言ってんじゃないわよ!』って。そしたら今度は『君に惚れた』とか言い出して。『そんなの信じられるか!』って言ったら、この指輪買って来てプロポーズすんの。信じられるー?」

そう言いつつ、未散の顔が妙に赤い。

「未散ちゃん、照れてるでしょ」

美蘭がそう言うと、未散は絶句した。

「わあ、こんな未散ちゃん初めて。新鮮だなー」
「ちょっと、美蘭?」
「ふふっ、お幸せにね。春日さん、未散ちゃんを末永くよろしくお願いします」

もちろん!と笑顔で答える春日と、ふいっとそっぽを向く未散。
そんな二人に、美蘭は自分のことのように嬉しくなった。