解けない魔法を このキスで

「これまたすっごいところね」

春日ブライダルが開いた晩餐会の会場は、元は宮殿だったパラッツオで、天井画や大理石がまるで美術館のようにゴージャスだった。

ホールにはシャンデリアが輝き、外にはテラスとガーデンも広がっている。

ゲストの装いも豪華で、皆、既にシャンパンを片手におしゃべりを楽しんでいた。
ヴァイオリンやヴィオラ、チェロの弦楽四重奏が、華やかな音楽を奏でている。

「俺は挨拶回りがあるからここで。どうぞ楽しんでね」

テーブルに三人を案内すると、春日はそう言ってホールをあとにした。
しばらくすると前方のステージに、マイクを持った春日が現れる。

「Signore e signori, benvenuti al banchetto.」

流暢なイタリア語で挨拶する春日に、未散が「わーお! やるねー」と感心した。

「ほんと、すごいね。でもなんて言ってるのか全然分からない」

美蘭がそう言うと、ふいに横から高良の声がした。

「皆様、晩餐会へようこそ。今夜は春日ブライダルが日頃からお世話になっている皆様をおもてなしいたします。そしてこれから更に大きく羽ばたく春日ブライダルに、どうぞご期待ください」
「え、高良さんもイタリア語が分かるの?」
「これくらいならね」

すごーい!と未散と美蘭は声を揃える。

「私、日本語もままならないのに」
「未散ちゃん、それはないよ」
「でも日本語だけで精いっぱい」
「うん、それは私も」

真顔で話していると、春日の音頭で乾杯となった。

「かんぱーい!って、イタリア語でなんて言うの?」

未散に聞かれて高良が「サルーテ」と答える。

「サル打て?」
「いや、多分違う」

真面目な二人のやり取りに美蘭はふふっと笑い、かんぱーい!とグラスを掲げた。