解けない魔法を このキスで

翌日から、春日が三人を街に案内する。

「まずは今日1日、観光を楽しんで」

そう言われて観光名所を見て回った。

5世紀もの年月をかけて作られた世界最大級のゴシック建築「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」通称「ドゥオーモ」

レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作「最後の晩餐」が観られる「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」

壮大なガラスドームとフレスコ画が優美なショッピングアーケード、「ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガレリア」

運河添いのカフェで本場イタリアのピザやパスタ、デザートも大いに堪能し、スカラ座でオペラを鑑賞した。

次の日は春日ブライダルのミラノ支店を訪れて、現地スタッフと名刺交換をする。
その後、提携している大聖堂や教会を案内してもらった。

どこを回っても、厳かで神聖な雰囲気に圧倒され、優美で美しい建築に息を呑む。
美蘭と未散はスケッチブックを広げて、時間も忘れてドレスのデザイン画を描いていた。

また別の日は少し遠出して高速鉄道でフィレンツェへ、更にはコモ湖へも足を延ばした。

そしてミラノ滞在の最後の日がやって来る。
その日は夜に春日ブライダルが主催の晩餐会が開かれるとのことで、美蘭達もドレスアップして参加することになっていた。

「美蘭、ドレス選びに行こうよ」
「うん。本場のドレス、楽しみ!」

高級ブランドが並ぶモンテナポレオーネで、二人でドレスを選び合った。

「やっぱり美蘭ときたらこれ! 絶対高良さんが惚れ直すよ」
「そうかな?」
「うん。ヘアメイクは私がバッチリ整えて上げるからね」
「ありがとう」

二人で買ったばかりのドレスを抱えてホテルに戻ると、部屋にこもって支度をする。
高良と春日も別の部屋で準備をして、時間になるとリビングで落ち合った。

「美蘭……」

髪型をフォーマルに整え、光沢のあるスリーピースのスーツにシルクのアスコットタイを合わせた高良が、驚いたように目を見開く。

(わあ、高良さん、すごくかっこいい)

美蘭もぽーっと高良に見とれた。

「おやおやお二人さん。どちらへ行かれてます?」

ブラックのスーツにボウタイを締めた春日が、おどけたように笑う。

「ほんと。もう二人の世界に行っちゃってるわね」

ゴールドのきらびやかなタイトドレスに身を包み、夜会巻きに髪を結ったドレッシーな未散も、美蘭と高良を見比べてクスッと笑った。

「先に行きますか、未散ちゃん」
「そうですね」

春日が差し出した左肘に手を添えて、未散は歩き出す。
残された美蘭は、おずおずと視線を上げた。

「あの、高良さん」
「美蘭、すごく綺麗だ。息が止まりそうになった」
「え、そんな大げさな」

未散が選んだ美蘭のドレスは、目が覚めるように鮮やかなブルーのフレアドレス。
生地をたっぷり使ったスカートは歩くだけで軽やかに揺れ、ウエストの左右から後ろにかけてオーガンジーが重ねてある。
胸元は鎖骨が綺麗に見えるラインで、きらめくネックレスを合わせた。
袖はふんわりとしたエアリーなパフスリーブで、少し甘いテイストになっている。

更に未散は、毛先を巻いた美蘭の髪を華やかにアップでまとめ、前髪は左に流して固めてから、メイクはピンクをメインに可愛らしく仕上げた。

「ふふっ、どこからどう見てもプリンセス」

最後に唇にリップグロスを塗ると、未散は鏡の中の美蘭にそう言って満足気に笑っていた。

「あの、高良さんもとっても素敵です」

照れながらそう言うと、高良は美蘭に歩み寄り、手を差し伸べた。

「行こうか、俺のシンデレラ」
「ふふっ、はい。私の王子様」

二人で微笑み合い、腕を組んで部屋を出た。