解けない魔法を このキスで

「はあ、ファーストクラスってなんて快適なの! あっという間にミラノに着いちゃった」

夕方にマルペンサ空港に着くと、両手を上げてそう言う未散に、美蘭は苦笑いする。

「未散ちゃん、ファーストクラスでも飛行時間は変わらないよ」
「えー、でも体感時間は全然違う。全く疲れてない。むしろ自宅よりよく眠れたし。ファーストクラス最高ー! ミラノばんざーい!」
「あはは! もう既にテンション高いね」

そんな美蘭も、ファーストクラスのあまりの心地良さと手厚いサービスに、まるでどこぞのお嬢様のような気分を味わっていた。

(全部高良さんのおかげ。未散ちゃんも嬉しそうだし、良かった)

その高良は、これまたスマートにタクシーを止めて、三人分の荷物をトランクに載せている。

「行こうか」

声をかけられて、美蘭は「はい」と頷いた。

タクシーから見える景色に未散と二人ではしゃいでいると、着いたのはこれまた豪華な5つ星ホテルだった。

「うわっ、宮殿みたい」

思わず立ち止まってロビーのシャンデリアを見上げていると、チャオ!と陽気な声がして振り返る。

「春日さん!」
「ようこそ、ミラノへ」

仕事で既にミラノ入りしていた春日と、このホテルのロビーで落ち合うことになっていた。

「チェックインは済ませておいたよ。行こう、部屋に案内する」
「はい、ありがとうございます」

あとをついて行くと、案内されたのはテラス付きのペントハウススイートだった。
ルーフトップにあるスイートルームで、専用のプライベートエレベーターでしか上がれない。
オープンエアのガーデンテラスは、テーブルやソファ、カウチベッドまである。
ミラノのシンボルのドゥオーモと歴史ある街並みを眺めながら、オープンエアで食事が出来るとのことだった。
広々としたリビングルームと、ベッドルームも3つ、更には映画観賞が出来るメディアルームまである。

「な、なにここ。どこここ。どういうことー?」

もはや日本語が上手く出て来ない未散が、仰け反って驚く。

「美蘭、どうしよう。私、興奮しすぎて声が出ない」
「いや、充分出てるよ。なんならうるさいくらい」
「もしかして、今日が最後の晩餐なの? ここで今から最後の晩餐?」
「いやいや、違うから。とにかく落ち着いて」

すると春日が口を開いた。

「未散ちゃん、『最後の晩餐』は明日観に行こう。予約を入れてあるんだ」
「え、明日? 明日が最後の晩餐なんですか?」
「そうだけど。え? いや、違うよ? そっちの晩餐じゃない」
「じゃあどっちの晩餐!?」

ははは!と高良が笑い出す。

「では今夜の晩餐は、オープンテラスでルームサービスを頼もうか」
「え、すごい! 楽しみ! ね、美蘭」

うんと頷いてから、美蘭は高良を見上げる。

「ありがとう、高良さん」
「ん? なにが?」

またしても真顔で首をかしげる高良に、美蘭もふふっと笑って肩をすくめてみせた。