3日後。
仏頂面の高良に苦笑いしつつ、美蘭は高良と一緒に『プラージュ横浜』の和食レストランに向かっていた。
そこで12時に春日副社長と食事をすることになっている。

「高良さん、そんな顔しないで。せっかくのイケメンが台無しですよ?」
「あいつには隙を見せたら終わりなんだ。これくらい気合い入れていかないと」
「一度春日副社長と会ったことあるんですよね? そこではどんなお話を?」

すると思い出したのか、高良は更にメラメラと闘志を燃やす。

「絶対にあいつのペースにはさせない。そして思い知らせてやる。俺の美蘭に手を出したらどうなるかってことをな」

一体なんの話を……と、美蘭は頭を抱えそうになった。

時間より15分も早く着き、個室で春日を待つ。
高良は武士のように姿勢を正して精神統一していた。

「お待たせしました」

時間ちょうどに爽やかな笑顔で現れた春日に、美蘭と高良は立ち上がって挨拶する。

「本日はご足労いただき、ありがとうございます」
「こちらこそ。お時間をいただいてありがとう」

そう言って春日が美蘭に握手を求めると、高良が横からガシッとその手を握った。

「ようこそ、我々のホテルへ。私達はいつでも二人であなたを歓迎いたしますよ」

顔は笑っているが、手に込めた力はハンパないらしく、春日の眉がぴくりと上がる。

「さあどうぞ、お掛けください。すぐに食事を用意します。食前酒はこちらにおまかせで構いませんか? 美蘭、君はいつものでいいかな」

あからさまなやり方に、美蘭は眉根を寄せたまま高良を見つめた。

「ん? どうしたんだい、美蘭」

オーダーを済ませると、高良は大げさなほど美蘭の顔を覗き込んでくる。

「新海副社長、お仕事のお話をしましょう」

美蘭が冷たく答えると、春日が笑い出した。

「白石さんも大変だね。こうも露骨にヤキモチ焼く彼氏なんて」

なに!?と高良が敵意を剥き出しにする。

「新海さん、俺は時間の無駄使いがなにより嫌いなんです。早速本題に入りましょう。あ、その前に。今は白石さんには手を出しませんのでご安心を」
「今は、ってどういう意味だ?」
「そのままですよ。それ以上でもそれ以下でもない。では本題です」

春日はテーブルに両腕を載せて身を乗り出した。

「新海副社長。ミラノにホテルを建ててください。そして白石さん。ソルシエールのドレスを我々に託してください」

は?と、高良と美蘭は呆気に取られた。

「我々春日ブライダルは、ミラノの大聖堂や教会と提携している。そこを強みにして更に飛躍を遂げたい。新海ホテル&リゾートのホテルに宿泊して支度を整え、ソルシエールのドレスを着て美しい大聖堂で結婚式を挙げる。人生でたった一度の晴れ舞台に、新郎新婦の理想を全て叶えたい。新海さん、以前あなたに伝えたでしょう? 私は今後、業界の壁を超えて日本を明るく幸せにしたい。我々春日ブライダルと新海ホテル&リゾート、そしてソルシエール。この3社がタッグを組めば、より幸せなカップルが増える、とね」

高良はじっと春日の言葉に耳を傾ける。

「御社はまだミラノにはホテルをお持ちではないですよね。 ぜひとも1から建築してください。ミラノの景観にふさわしく、かつゴージャスな内装で。御社のホテルなら日本人が安心して泊まれて、ゲストも呼び寄せやすくなる。挙式後にホテルでパーティーを開けるよう、バンケットルームもぜひ」

そして春日は、今度は美蘭に向き直った。

「白石さんのドレスへのこだわりは理解しているつもりです。ミラノの春日ブライダルの店舗にドレスを卸すことは望まないでしょう。ですから花嫁は、日本でソルシエールのドレスを選び、あなたに調整してもらいます。その上でそのドレスをミラノに送り、式を挙げる。当日はうちのスタッフがきちんとドレスを整えられるよう、あなたにレクチャーを受けさせます。どうか信頼していただきたい」

話は以上です、と言って、春日は運ばれてきた食前酒を手にする。

「では乾杯しましょうか」

にこやかな笑顔を向けられて、高良と美蘭もグラスを掲げた。