「とっても美味しかったです」

デザートもぺろりと食べて大満足の美蘭は、出口に向かいながら高良にお礼を言う。

「新海さん、今夜はありがとうございました」
「どういたしまして。美蘭、ちょっとここで待ってて」
「え? はい」

出口でそう言い残した高良は、外に出るとタタッと駆け出して行く。
どうしたのだろうと首をひねってから、もしかして、と思い当たった。

(車まで少し距離があるから、私を歩かせないように?)

きっとそうだろう。
自分を大切にしてくれているのが分かり、美蘭は嬉しさに微笑む。

高良を待ちながらふと目をやると、レジの横にテイクアウト用の焼き菓子やケーキが並んでいた。
その中に綺麗にラッピングされたチョコレートもある。
飾られている文字を何気なく読んでみた。

(ハッピーバレンタイン……、あ! そうか。今日はバレンタインだ)

彼氏もいないし職場に男性もいないからと、毎年バレンタインデーは気にも留めていなかった。
でも今年は……

(彼氏って堂々と言えなくてもいい。私が新海さんに贈りたいんだもん)

美蘭はシックな色合いでラッピングされた、ウイスキー入りのトリュフを選んでレジに向かった。