食後のデザートは、ソファに並んで座って味わう。
すぐ隣で幸せそうにケーキを頬張る美蘭に、高良はもうこれ以上気持ちを抑えることは出来なかった。

「白石さん」
「はい」
「今夜君を引き留めたのは、伝えたいことがあったからだ」
「なんでしょう? お仕事のお話ですか?」
「違う。俺は君が好きだ」
「……え?」

まったくの想定外だったのだろう。
美蘭は一瞬キョトンとする。

「白石さん。俺は君のことが誰よりも好きだ」

もう一度、真っ直ぐに美蘭を見つめて告げる。
すると美蘭は目を見開き、みるみるうちに頬を赤く染めた。

「えっ、あの、いきなりどういうことですか?」

うつむいて後ずさろうとする美蘭に、高良は身体ごと向き直る。

「恋に落ちたのは、去年のクリスマスイブだ。だけど最初に心惹かれたのは、もう何年も前になる。はるか昔の君に」

え?と美蘭は不思議そうに首をかしげた。

「それって、いつのことですか?」
「17年前だ。俺が15歳、そして君はまだ10歳だった」
「そんな昔に、私は新海さんと会っていたんですか?」
「そうだ。俺はその時のことを、今でもはっきりと覚えている。君が『フルール葉山』で話してくれた言葉を、心の中で大切にしながらね」
「私が10歳の頃、『フルール葉山』で? それって……」

答えにたどり着いたらしく、美蘭はハッとしたように顔を上げた。

「もしかして、あの大階段で?」
「ああ。俺は父親に連れられて、視察に来ていたんだ。だけどホテル業界にはまるで興味がなくて、うんざりしていた。そこに10歳の君が目をキラキラ輝かせて現れた。ウェディングドレス姿の花嫁を見て、感激しながら口にした言葉。俺は君のその言葉に、自分の進むべき道を教えてもらった。君は覚えていないかもしれないけれど」

そう言うと、美蘭は大きな瞳を涙で潤ませた。

「えっ、どうした?」

今にも涙がこぼれそうな美蘭の瞳を、高良は慌てて覗き込む。

「俺、なにか気にさわることを言ったか?」
「ううん、違うんです。私、信じられなくて。だってあの時のあの光景が、私の夢のはじまりだったから。忘れるはずありません。私にとっても、10歳の時の自分の言葉は、いつだって私の心の支えだったから。それをあなたが覚えていてくれたなんて、嬉しくて……」

遂に美蘭の目から涙がこぼれ落ちた。

「大切にしてくれていたんですか? まだ子どもだった私の言葉を」
「ああ、そうだよ。俺にとってもあの言葉は、いつだって心の支えだったから」

二人で見つめ合いながら、同時に口を開いた。

『さめない夢が叶う場所』

重なった声に、ふっと二人で微笑み合う。

「俺にこの言葉をくれて、ありがとう」
「私こそ。大切に覚えていてくれて、ありがとうございます」

高良は優しく微笑むと、そっと右手で美蘭の頬に触れた。

「ずっと心の中にいた女の子が、こんなに綺麗で魅力的な女性になって、俺の心を惹きつけた。俺は心から君が好きだよ、……美蘭」

美蘭の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
高良は美蘭の頬に流れた涙を、親指でそっと拭った。

「私、私ね」
「うん、なに?」
「クリスマスイブのパーティーで一緒に踊った時、あなたのことを王子様みたいって思ったの。でも本物だった。あなたは私の、たった一人の運命の人です」

懸命に涙をこらえながら真っ直ぐに見つめてくる美蘭に、高良の胸はキュッと切なく痛む。
やがて優しく美蘭の瞳を覗き込んだ。

「おとぎ話の締めくくりで、お姫様がどうなるか知ってる?」

いたずらっぽく聞くと、美蘭はちょっと首をかしげてから上目遣いに高良を見上げる。

「幸せになるの?」
「そう。愛する人のキスでね」

美蘭の頬に手を添えたまま高良はゆっくりと顔を寄せ、17年前の想いも込めて、優しく美蘭にキスをした。