解けない魔法を このキスで

4日後の日曜日。
高良はなんとか『フルール葉山』で美蘭に会おうと、朝からひたすら仕事をこなしていた。
16時にその日の仕事を全て終わらせ、すぐさま車で葉山に向かう。

到着するとちょうど披露宴がお開きになったところで、高良はホッとしながら美蘭の姿を探した。
だが披露宴会場にも、ブライダルサロンにも見当たらない。

高良は、披露宴会場で撤収作業をしている支配人に声をかけて聞いてみた。

「白石さんですか? 今日はもう帰られましたよ」
「なに!? いつの間に?」
「今日のソルシエールのドレスは挙式のみだったので、14時にはここを出られました」

それならアトリエに向かってみようと立ち去りかけた高良に、支配人は更に驚くことを告げる。

「白石さん、スーツケースを持って急いで空港に向かわれました。もうすぐ飛行機に乗るところでしょうね」

高良は目を見開いて支配人を振り返った。

「飛行機だと? 一体、どこに?」
「あれ、ご存知なかったんですか? 白石さん、ミラノに行かれたんですよ。それなのに、来週の挙式もちゃんと立ち会いますからって、ここでの仕事終わりに空港に向かう弾丸スケジュールを組んでくださって。こんな時くらい立ち会えなくてもいいのに、本当に律儀な方ですよねえ」
「ミラノ……」

高良は呆然としながら呟く。
もしやと、考えたくないことが頭をよぎった。

「白石さんだけですか? 常盤さんは?」
「常盤さんは同行されないそうです。日本での仕事があるからと」
「では、白石さんは誰と?」
「さあ、そこまでは」

その時スタッフが「支配人、少しよろしいですか」と声をかけてきた。

「それでは、私はこれで」

支配人が去っても、高良はしばらくその場を動けずにいた。