解けない魔法を このキスで



「はあ、楽しかった」

自宅アパートまでタクシーで戻って来ると、美蘭はベッドにボスッと身を投げる。
見慣れた天井を見上げて、「夢から現実、お城からアパート」と自虐的に呟いて笑った。

(でも本当に夢みたいな時間だった。ドレスを着てダンスを踊るなんて、映画の中のプリンセスにしか出来ないと思ってたのに)

高良にリードされて、一緒に踊ったことを思い出す。
最初はただ恥ずかしくて緊張していたが、徐々に楽しさへと変わっていった。
高良の手を借りてくるっと回った時、ドレスが理想通りのサーキュラーを描いて軽やかに広がったことに感激した。

(このドレスは、王子様と一緒にダンスを踊った時に初めて完成したんだな)

そう考えてから、王子様!?と自分の言葉に思わず驚く。

(新海さんが王子様ってこと? いや、でも本当に王子様みたいだった)

クールで硬派で、時にはコワモテだった高良が、今夜はとにかく優しかった。
さり気なく美蘭の手を取って気遣い、常に微笑んでくれていた。

(どっちが本当の新海さんなんだろう。今夜はパーティーだから女性をエスコートしなきゃって思っただけなのかな? そうよね、副社長さんだもん。社交的な場に慣れていらっしゃるだけよね)

相手が自分でなくても、同じようにエスコートしただろう。
そう思い、美蘭は割り切ることにした。

(今夜は夢のひととき。明日からはまたいつもの現実)

それでも――。

(あと少し、日付が変わる0時まではドレスを着て、夢の余韻に浸っていよう)

そう思い、楽しかったパーティーを思い出してふふっと笑った。