篠原からの告白を受け、咲はすぐに動き出した。怜央が極秘に進めていた財務分析報告書を読み込み、デパートの再建策を練り直す一方で、データエラーの原因究明にも力を注いだ。
咲は、自身のミスではないと確信していたため、冷静沈着にシステムのログを解析。そして、高千穂 葵が仕組んだ改ざんの微かな痕跡を、シンフォニア側の技術者と協力して突き止めることができた。
プロジェクトのエラーは解消し、データ移行も無事完了。デパートへの損害は最小限に食い止められた。この功績により、咲の社内での評価は一気に高まり、同時に、彼女を貶めようとした葵の企みは水泡に帰した。
その日の夜、激しい雷雨が都会を洗い流していた。
咲は、シンフォニア本社での最後の報告を終え、心身ともに疲れ果てていた。ビルを出ると、雨は小降りの霧雨に変わっていたが、タクシーは捕まらない。
咲がホテルの軒先で立ち尽くしていると、背後から一台の黒い高級車が滑るように横付けされた。運転席の窓が下がり、怜央が硬い表情で座っていた。
「乗れ」
彼の声は低く、命令的だった。
咲は拒否する理由もなく、助手席に乗り込んだ。車内は外の湿気から遮断され、怜央の落ち着いたコロンの香りが漂っている。車はゆっくりと走り始めたが、二人の間に重い沈黙が流れた。
先に口を開いたのは、怜央だった。
「…今回のトラブル。お前のミスじゃなかったことは、知っている」
咲は息をのんだ。彼が謝罪などするはずがないと思っていたからだ。
「最初から、知っていた」
「じゃあ、どうしてあの時、私をあんなふうに…」
怜央は、信号で車を止めると、視線を前方に向けたまま、深く息を吐いた。
「…悪かった」
その言葉は、まるで何重にも固められた氷の壁が、音を立てて崩れるようだった。彼は、あの冷徹な仮面の下に隠していた、素直な感情を初めて覗かせた。
「お前を庇えば、高千穂に狙われる。葵は、俺が誰を一番大事にしているか、わかっているからだ。…だから、突き放すしかなかった。ビジネスの場から、お前を遠ざけたかった」
「冷たすぎるわ…」咲の目に、また涙が滲んだ。しかし、それは悲しみの涙ではなく、切ないほどの安堵の涙だった。彼が自分を信じて、そして愛しているからこその行動だったのだ。
車は、夜景が見渡せる静かな高台の駐車場に停車した。雨は完全に上がり、雲の隙間から、ぼんやりと月明かりが差し込んでいる。
怜央は、無言で車のエンジンを切ると、乱暴なほど強い力で、咲の体を自分の方へ引き寄せた。
「お前の婚約が、俺を狂わせている。毎日、お前が他の男のものになることを想像して、気が変になりそうだ」
彼の声は、これまでの冷酷さとはかけ離れた、焦燥と独占欲に満ちたものだった。咲は、彼のスーツの胸元に顔を埋める。彼の体温が、凍っていた咲の心を溶かしていく。
「…もう、二度とあんな酷い嘘、つかないで」
「…わかった。あと、これだけは言える。お前が傷つくのが、何よりも嫌なんだ」
怜央は、咲の髪に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
「俺にとって、お前はただの幼馴染なんかじゃない。最初から、…俺のものだ」
強く、力強く、そして優しく咲を抱きしめる怜央。それは、彼がプライドと誤解という名の檻から、ついに咲を解放し、そして彼自身も解放された瞬間だった。雨上がりの夜景は、二人の和解を祝福するかのように、静かにきらめいていた。
咲は、自身のミスではないと確信していたため、冷静沈着にシステムのログを解析。そして、高千穂 葵が仕組んだ改ざんの微かな痕跡を、シンフォニア側の技術者と協力して突き止めることができた。
プロジェクトのエラーは解消し、データ移行も無事完了。デパートへの損害は最小限に食い止められた。この功績により、咲の社内での評価は一気に高まり、同時に、彼女を貶めようとした葵の企みは水泡に帰した。
その日の夜、激しい雷雨が都会を洗い流していた。
咲は、シンフォニア本社での最後の報告を終え、心身ともに疲れ果てていた。ビルを出ると、雨は小降りの霧雨に変わっていたが、タクシーは捕まらない。
咲がホテルの軒先で立ち尽くしていると、背後から一台の黒い高級車が滑るように横付けされた。運転席の窓が下がり、怜央が硬い表情で座っていた。
「乗れ」
彼の声は低く、命令的だった。
咲は拒否する理由もなく、助手席に乗り込んだ。車内は外の湿気から遮断され、怜央の落ち着いたコロンの香りが漂っている。車はゆっくりと走り始めたが、二人の間に重い沈黙が流れた。
先に口を開いたのは、怜央だった。
「…今回のトラブル。お前のミスじゃなかったことは、知っている」
咲は息をのんだ。彼が謝罪などするはずがないと思っていたからだ。
「最初から、知っていた」
「じゃあ、どうしてあの時、私をあんなふうに…」
怜央は、信号で車を止めると、視線を前方に向けたまま、深く息を吐いた。
「…悪かった」
その言葉は、まるで何重にも固められた氷の壁が、音を立てて崩れるようだった。彼は、あの冷徹な仮面の下に隠していた、素直な感情を初めて覗かせた。
「お前を庇えば、高千穂に狙われる。葵は、俺が誰を一番大事にしているか、わかっているからだ。…だから、突き放すしかなかった。ビジネスの場から、お前を遠ざけたかった」
「冷たすぎるわ…」咲の目に、また涙が滲んだ。しかし、それは悲しみの涙ではなく、切ないほどの安堵の涙だった。彼が自分を信じて、そして愛しているからこその行動だったのだ。
車は、夜景が見渡せる静かな高台の駐車場に停車した。雨は完全に上がり、雲の隙間から、ぼんやりと月明かりが差し込んでいる。
怜央は、無言で車のエンジンを切ると、乱暴なほど強い力で、咲の体を自分の方へ引き寄せた。
「お前の婚約が、俺を狂わせている。毎日、お前が他の男のものになることを想像して、気が変になりそうだ」
彼の声は、これまでの冷酷さとはかけ離れた、焦燥と独占欲に満ちたものだった。咲は、彼のスーツの胸元に顔を埋める。彼の体温が、凍っていた咲の心を溶かしていく。
「…もう、二度とあんな酷い嘘、つかないで」
「…わかった。あと、これだけは言える。お前が傷つくのが、何よりも嫌なんだ」
怜央は、咲の髪に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
「俺にとって、お前はただの幼馴染なんかじゃない。最初から、…俺のものだ」
強く、力強く、そして優しく咲を抱きしめる怜央。それは、彼がプライドと誤解という名の檻から、ついに咲を解放し、そして彼自身も解放された瞬間だった。雨上がりの夜景は、二人の和解を祝福するかのように、静かにきらめいていた。

