【完】ぜんぶ、ちょうだい。




「今日、使えば?」

「……え?」

「泊まっていかないの?」

「……え。……あー」



言葉に詰まる。
そのつもりじゃない、って言えば嘘になるし、最初から泊まるつもりでした、って言うのも、さすがに恥ずかしい。

何度かここにはお邪魔していて、もう知らない場所じゃないはずなのに、こういう瞬間だけは、いまだに慣れない。


リビングにも、洗面台にも、少しずつ私のものが増えている。

シンプルが好きな先輩の部屋に、私が選んだカラフルなクッションや、ピンクの歯ブラシが当たり前みたいに置かれていて。

それを見るたびに、ああ、もうすぐ同棲が始まるんだ、って実感する。



「今日、これ着ないの?」

「そっ……」



そんな顔するんですか……!?

構ってもらえない犬みたいで、思わず胸がきゅっとなる。



「だ、だって先輩、最近っ……!」

「最近?なに?」

「……ぐっ」



私の後ろにそっと手が回ってきて、距離がぐっと近づく。


あ……これ、キスされるやつ。