ぜんぶ、ちょうだい。




「先輩、あの…」



声をかけようとした瞬間、泉先輩は靴を履き替えて、何も言わずにスタスタと歩いて行ってしまった。
私の声なんて、風に流されるくらい軽かったみたい。

背中は遠くなるばかりで、振り返る気配なんて、やっぱりない。



「ねえ、こまちゃん。もうやめない?」



ロッカーの影から、ひまちゃんが出てきた。呆れた顔。でも、目は優しい。



「面白そうだから毎日ついてきてるけど…一回も声聞いたことないよ…?」



その言葉に、胸がちくって痛んだ。

そう。先輩を好きになってから、毎日こうして挨拶してる。
「おはようございます」って、笑顔で声をかけて。

でも、返事はない。毎日、無視。いつも、無表情。
まるで、私の存在なんて、最初から見えてないみたい。