【完】ぜんぶ、ちょうだい。




また、ぽろっと。
涙が一粒、頬を伝った、その瞬間だった。


先輩が立ち上がる気配がして、次の瞬間、私の頬が、両手で包み込まれる。



「せ、せんぱ――」



呼びかけるより先に、言葉を遮るみたいに、キスが落ちてきた。


それは、あの日のキスよりもずっと強引で、逃げ場がなくて、少し苦しくて、息をつく暇もないくらい近くて。


なのに。

幸せで、うれしくて、涙と気持ちがぐちゃぐちゃになって、どうしていいか分からない。



「……っ」



唇が離れて、思わず、はあ、と息が漏れた。
胸が上下して、心臓が追いつかない。

先輩は、まだ私の頬を包んだまま、少しだけ近い距離で、静かに言う。



「……もっと、していい?」

「えっ……」



今度は、頬じゃなくて、もう少し上。
耳のあたりから、頭を包むように、少し強めに押さえられる。


先輩の指先の温度が、じわっと伝わってきて、私はただ、ぎゅっと目を閉じた。


――ああ。
先輩も、同じくらい不安で、同じくらい必死なのかも。