次の瞬間、繋がれたままの手を、ぐっと強く引かれて。
体が前に傾いた、その一瞬。
唇に、柔らかい熱。
「……っ」
朝と同じ――
いや、それよりもずっと突然で、ずっと近くて。
理解が追いつく前に、全部が終わっていた。
何が起こったのか、分からない。
本当に、一瞬。
時間が止まったみたいで、音も、景色も、全部飛んでしまった。
「……顔、赤すぎ」
そう言われて、はっと我に返る。
自分でも分かるくらい、熱が顔に集まっていて。
「……っ、きゃ、キャパオーバーですっ」
頭の中は真っ白なのに、心臓だけが暴れていて、どうしていいか分からない。
先輩はそれを見て、クスクスと楽しそうに笑った。
「ちゃんと、あったかくして寝ろよ」
低くて、優しくて。
冗談みたいなのに、とびっきりの愛の言葉を、耳元に落として。
そのまま、何事もなかったみたいに、先輩は行ってしまった。
引き留める余裕も、見送る余裕もなくて。
私はただ、その場に立ち尽くして、遠ざかっていく先輩の背中を見つめることしかできなかった。
……声、かければよかったかな。
手、振ればよかったかな。
少しだけ、後悔。
唇には、まだ、さっきの感触が残っていて。
頭では、まだほんの少ししか理解できていないのに。
心臓だけは、どうしようもないくらい、うるさかった。
今夜、きっと、簡単には眠れない。



