【完】ぜんぶ、ちょうだい。




でも、幸せな時間って、どうしてこんなにも早く過ぎてしまうんだろう。


さっきまで一緒に笑っていたはずなのに、気づけばもう、見慣れた家の前。
玄関灯がぼんやり点いていて、それが現実を突きつけてくるみたいで、胸の奥がきゅっと縮まった。



「……もう、着いちゃいましたね」



本当は、あがっていきませんか?
そう言いたい気持ちは、喉の奥まで出かかっていた。


でも、家の中にはもう親が帰ってきているし、そんなわがままを言える空気でもなくて。
結局、その言葉は飲み込んだまま、代わりに違う本音がこぼれ落ちる。



「……めっちゃくちゃ、名残惜しいですけど……」



声に出した瞬間、余計に寂しさが増した気がした。
それでも、ちゃんと伝えたかった。



「今日、ほんとに嬉しかったです」



繋がれた右手。
いつもより少しだけ強く握られているその温もりが、離れてしまう未来を予告しているみたいで、怖くて。
私のほうからは、まだ、どうしても離せないでいる。