【完】ぜんぶ、ちょうだい。




屋上へ続く階段の踊り場まで半ば強引に連れていかれたと思った次の瞬間、ドンッ、と鈍い音がして、先輩の手が私の顔の横の壁についた。


思考が追いつく前に距離が一気に縮まって、視界いっぱいに先輩の顔が広がる。


これって、いわゆる壁ドンってやつでは……!?


と気づいたときにはもう遅くて、心臓が暴れるみたいに跳ねた。


近い。とにかく近い。

整った綺麗な顔がすぐそこにあって、息がかかりそうなくらいで、頭が真っ白になる。


考えるより先に口が動いてしまって、……かっこいい、と呟いていた。



「もっと危機感持てよ」



低く、少し苛立った声でそう言われて、はっとする。

怒ってるはずなのに、眉を寄せた先輩の表情が、どうしようもなくかっこよく見えてしまうのが問題だ。

頭の上に怒りマークが見える気がするのに、それすら愛おしく感じてしまう自分がいる。



身長差のせいで、自然と見上げる形になる。

抱きしめられているわけじゃないのに、距離が近すぎて、先輩の匂いにすっぽり包まれているみたいだった。