【完】ぜんぶ、ちょうだい。




”ふたりきりのとき限定だから”


そうやって、いかにも特別みたいな言い方をするくせに。
甘い言葉を吐く癖に。
その“限定”の場面で、まだ一度も言ってくれたことはない。


……ずるい。
ずるいよ、ほんとに。



「それなら、安心っす」



清水はそう言って、軽い笑顔を向けた。



「じゃあ、俺、先に教室戻るわ」



そう言って、振り返りざまに、お幸せに、なんて言いながら行ってしまった。


先輩の顔を、恐る恐る見上げる。



「……ずるい」



ほとんど声にならないくらい、小さく呟いた。
聞こえなくてもいい、と思ったのに、ふっ、と笑われた。



「何がずるいの?」



そんなの、分かってるくせに。
分かってないふりするところが、いちばんずるい。



「吉川のほうがずるいよ」

「ど、どうしてですか?」

「キスしたって聞かされたときはさ」



先輩は視線を逸らしながら続ける。



「相手のこと知らなかったから、どうとでも言えたけど。いざ目の前にすると、普通にムカつく」



はー、と先輩は本日二度目のため息をつく。


……なのに。