【完】ぜんぶ、ちょうだい。




「実は昨日、せん……」



そこまで口にして、私は言葉を飲み込んだ。

先輩に、誕生日をお祝いしてもらったこと。
昨日のことを思い出すだけで、胸の奥が、少しだけあたたかくなる。


でも――だめだ。

先輩のことばかり考えていたせいで、うっかり忘れかけていた。

清水に、先輩の話をするのって、あまりよくない気がする。



「吉川。先輩に会いに行かなくていいのかよ?」

「え?」



清水は私を見ないまま、ちらりと壁の時計に視線をやった。



「もう時間だろ?」



――やばい。



「わ、忘れてた!」



先輩が、そろそろ登校してくる時間だ。
勢いよく立ち上がったせいで、椅子が小さく音を立てる。
すぐに教室を出ようとして、ふと、清水の顔が目に入った。


……あ。

その表情を見た瞬間、なぜか足が止まって、私はもう一度、そっと座り直した。
清水は、少しだけ眉をひそめて、短く息を吐く。



「俺も行く」

「……え、なんで?」

「ちょうど、先輩と話したいことあったし」



清水は、それ以上なにも言わずに、先に教室を出ていってしまった。



「なんか面白いことになったね」



ひまちゃんは、楽しそうにそう言うけれど。

……全然、面白くない。

むしろ、落ち着かない。
なんで清水が、先輩と話すの?

話したいことって、なに?