春の光が差し込む邸宅の庭。
白いテーブルに並べられた紅茶の香りが風に溶け、咲き誇る花々が彩りを添えている。
「怜司さん、今日は珍しく早いのね」
微笑む紗良の声に、怜司は新聞を閉じ、頷いた。
「午前の会議を終わらせてきた。……たまには君とゆっくり昼を過ごしたくてな」
数か月前、互いを疑い、心が裂けるほどにすれ違った日々が嘘のようだった。
今では怜司は隠し事をせず、紗良もまた恐れずに彼の隣に立てるようになった。
「お父さまも、すっかり怜司さんを信頼しているわ」
「……厳しい方だからな。だが、君が間に立ってくれたおかげだ」
怜司がそう言って微笑む姿に、紗良の胸は温かく満たされる。
ふと、怜司は紅茶のカップを置き、紗良の手を取った。
「紗良」
「なに?」
「改めて伝えておく。あのときも、今も、そしてこれからも……お前だけを愛している」
紗良の瞳が潤み、柔らかな笑みが浮かぶ。
「私も。……どんなことがあっても、あなたを信じるわ」
庭に小鳥のさえずりが響く。
二人の間に流れるのは、言葉では表せない深い静けさと、互いを包み込む安心だった。
かつて偽りと疑念に揺らいだ愛は、試練を超えたことでより強く、揺るぎないものへと変わった。
――冷たい仮面の下で隠されていた真実は、今や温かな日常の中で確かに息づいている。
紗良はそっと怜司の肩に寄り添い、春の空を見上げた。
そこに広がる未来は、もう恐れるものではなかった。

