翌朝。
鳳条グループの本社に、不正の告発記事が駆け巡った。
「鳳条社長、取引先への違法供与」
「財閥間同盟の瓦解」

記者たちが殺到し、株価は急落。
社内に緊張が走る中、怜司は毅然と会見場に立った。

「事実無根だ。我々は一切不正をしていない」

強い声が響くが、押し寄せる報道の波は止まらない。
背後には、神宮寺家の影がちらついていた。



その頃、紗良は邸宅で父・雅臣と向き合っていた。
「お父さま、これは神宮寺家の仕業に違いありません」
「……そうだろうな」

父の表情には険しさが宿る。
「だが証拠がなければ動けん」

紗良は唇を噛み、握りしめた拳を震わせた。
(怜司さんをひとりで戦わせては駄目……私にできることがあるはず)



その夜。
紗良はひそかに神宮寺邸を訪れた。
玲奈が出迎え、驚いたように瞳を揺らす。

「まあ……奥さまがここに?」
「お願い。玲奈さん、真実を教えて」

玲奈の表情が一瞬固まる。
(父の命令に従えば、怜司さまは破滅する……でも――)

揺れる瞳。
玲奈は唇を強く噛んだ。



翌日。
怜司が記者会見で追い詰められている最中、会場の後方に立つ紗良の姿があった。
彼女の手には、一枚の書類。

「この不正は……神宮寺グループによる捏造です!」

声が響き渡り、会場が騒然とする。
玲奈が密かに託した証拠書類――父が仕組んだ虚偽の記録。
それが全てを覆した。



怜司の瞳が驚きに揺れ、やがて紗良を見つめる。
彼女は震える手でそれを差し出し、涙に濡れた声で言った。

「私は……もう逃げません。怜司さんを信じます」

怜司は一瞬だけ言葉を失い、そしてゆっくりと頷いた。
「……ありがとう、紗良」



神宮寺家の陰謀は暴かれ、虚構は崩れ去った。
偽りの鎖を断ち切った瞬間、夫婦を隔てていた壁もまた、静かに終焉を迎えていた。