「……怜司さんは、もう私を見ていないのかしら」
紗良はベッドの上で小さく呟いた。
寝室の時計が深夜を告げても、夫の帰宅はない。
暗い天井を見つめながら、昼間の玲奈の言葉が何度も甦る。
――怜司さまは、私を選ぶでしょう。
――あなたには、もう微笑んでいない。
胸の奥がじわりと痛み、涙が視界を滲ませた。
同じ頃、怜司はまだ社長室にいた。
書類をファイルに収めると、椅子に深く身を沈め、天井を仰ぐ。
「……紗良。今は耐えてくれ」
声に出しても届かないことは分かっている。
それでも彼は、心のどこかで祈らずにはいられなかった。
(必ずお前を守る。そのために俺は、あえて冷たい仮面を被るしかないんだ)
夜明け。
疲れ切った怜司が帰宅すると、邸宅は静まり返っていた。
寝室の扉を開けると、ベッドの上には眠ったまま涙の跡を残す紗良の横顔。
怜司はその頬に触れようとして、寸前で手を止めた。
「……すまない」
指先が空を切り、ただ彼女を見つめることしかできない。
もしこの手に触れたら、すべてを告げたくなる。
だが、それは彼女を危険に晒す。
怜司は背を向け、扉を閉めた。
その瞬間、ベッドの上で眠っていたはずの紗良の瞳が、薄く開かれた。
(やっぱり……もう、触れてすらくれないのね)
枕に顔を埋め、紗良の胸に冷たい痛みが広がっていった。
真実はまだ闇に隠され、二人のすれ違いは決定的な深さを増していく。
紗良はベッドの上で小さく呟いた。
寝室の時計が深夜を告げても、夫の帰宅はない。
暗い天井を見つめながら、昼間の玲奈の言葉が何度も甦る。
――怜司さまは、私を選ぶでしょう。
――あなたには、もう微笑んでいない。
胸の奥がじわりと痛み、涙が視界を滲ませた。
同じ頃、怜司はまだ社長室にいた。
書類をファイルに収めると、椅子に深く身を沈め、天井を仰ぐ。
「……紗良。今は耐えてくれ」
声に出しても届かないことは分かっている。
それでも彼は、心のどこかで祈らずにはいられなかった。
(必ずお前を守る。そのために俺は、あえて冷たい仮面を被るしかないんだ)
夜明け。
疲れ切った怜司が帰宅すると、邸宅は静まり返っていた。
寝室の扉を開けると、ベッドの上には眠ったまま涙の跡を残す紗良の横顔。
怜司はその頬に触れようとして、寸前で手を止めた。
「……すまない」
指先が空を切り、ただ彼女を見つめることしかできない。
もしこの手に触れたら、すべてを告げたくなる。
だが、それは彼女を危険に晒す。
怜司は背を向け、扉を閉めた。
その瞬間、ベッドの上で眠っていたはずの紗良の瞳が、薄く開かれた。
(やっぱり……もう、触れてすらくれないのね)
枕に顔を埋め、紗良の胸に冷たい痛みが広がっていった。
真実はまだ闇に隠され、二人のすれ違いは決定的な深さを増していく。

