リビングの灯りがやわらかく揺れていた。
けれど、その明るさは紗良の胸の中を照らすことはなかった。
玲奈の言葉を怜司に伝えてからというもの、心の棘はますます深く突き刺さっている。

「紗良……」
ソファに腰かけた怜司が、低い声で呼びかける。
「俺を信じられないのか」

紗良は膝の上で手を固く組み、視線を落とした。
「信じたい。でも……もう無理なの」
「無理だなんて、どうして」



沈黙が重くのしかかる。
やがて紗良は、震える声で口を開いた。
「……別れたいの」

怜司の瞳が大きく見開かれ、すぐに鋭い光を帯びた。
「……何を言っている」
「私、あなたの隣にいるのが苦しいの。疑ってばかりで、もう耐えられない」

「俺は君を裏切っていない!」
怜司は立ち上がり、声を荒げた。
「玲奈の言葉を真に受けるなんて……どうして俺じゃなく、あの女を信じる!」

「信じたかった! 本当はあなたを信じたかった!
でも、あの人に『別れて』と言われて、あなたが彼女と微笑み合う姿を見て……」

嗚咽が言葉を切った。
紗良の瞳には涙が滲み、頬を伝って落ちていく。



怜司は彼女の肩を掴み、必死に言葉を重ねる。
「俺が愛しているのはお前だけだ! 信じてくれ、紗良!」
「……信じられないの」

かすれた声は刃のように鋭く、怜司の胸に突き刺さった。
彼はしばらく動かず、やがて肩から力を抜いた。

「……分かった。だが、俺は絶対に君を手放さない」

その瞳には深い苦悩と、決意の炎が揺れていた。



扉の向こうに怜司の背中が消えると、紗良は力なくソファに崩れ落ちた。
「どうして……こんなに苦しいの」

愛しているのに、信じられない。
求めているのに、拒絶してしまう。

冷たい涙が頬を伝い、静かな夜に溶けていった