3月。

寒い時期も終わって、季節はあの日と同じ春に戻っていた。

けれど、わたしの中の季節は、もうまったく違う。


咲きかけの桜の下を歩きながら、ふとあの並木道を思い出す。

音楽に合わせて肩を揺らす玲杏のイヤホンを奪って、ふたりで流行りの音楽を聴いた帰り道。


思い返せば、楽しかった瞬間も確かにあった。

でも、それは「本物の友情」だったのかと聞かれたら、うまく答えられない。

教室に入ると、ちょうど玲杏が立ち上がったところだった。

前髪を整えながら、紗綾と小さな声で何かを話している。

その瞬間、不意に、目が合った。


玲杏の瞳のその奥に、少しだけ寂しそうな色が見えた。

でも、もうわたしはそこに立ち止まらない。

軽く目をそらし、何も言わずに席に向かった。


もう慣れた、一人での登下校。


あの時までは、親友なんだと思ってた。

玲杏も、同じ気持ちだと思ってた。

一緒に笑って、一緒に秘密を抱えて、ずっと続いていくものだと思ってた。


でも、違った。


その笑顔の奥には、噂と悪口と、恋心と嫉妬と──私の知らない感情が、渦を巻いていた。


でも、私はそれが偽りなんだと気づいた。


今は、玲杏との関係を聞かれたとしても、胸を張って言える。



────「元友達だ」と。




友達なんだと思ってた。Fin.