次の日の朝。

学校の門をくぐったとき、わたしの足はほんの少しだけ重たかった。

昨日の杏の言葉が、まだ体のどこかに残っていた。

「つまんない」「仕方なく一緒にいた」

何度思い返しても、胸の奥がズキズキする。

だけど、不思議と涙は出なかった。もう、泣き切ってしまったのかもしれない。

教室に入ると、空気は変わっていた。
玲杏は紗綾や莉緒と話していたけど、以前のようにわざとらしく笑うことも、こちらを見てコソコソすることもなくなっていた。

まるで、わたしがこのクラスから「ただのクラスメイト」になったみたいに。


それはきっと、痛みを越えた静けさだった。




昼休み、一人で図書室にいた。

何冊か本を手に取っては、また戻す。
内容なんて頭に入ってこない。

でも、その静かさに救われていた。

ふと、机の奥にしまってあったノートを取り出す。小説のアイディアを書きためていた、大事なノート。

杏に「絶対読む!」って言ってもらったとき、うれしくて、この中身をいつか見せたかった。

でも、今は違う。
ページの端に、ひとこと、書き加えた。

「誰かの期待じゃなく、自分の気持ちだけを信じること。」