人間って、ヒトから離れたら悪いところばかり見えてしまうものなのか。
玲杏に悪口を言われてから、わたしはずっと玲杏を観察してた。
教室で一番うるさい。
声がでかい。
人の噂話や恋バナを、口を滑らして意気揚々と話す。
人のプリ帳を盗み見た話、誰が誰を嫌っている、誰々が付き合ったらしい、浮気や他校の生徒が妊娠した、とまで。
どこから情報を入手してるのか、ペラペラと話す姿は…怖い。
「咲久、知ってる?うちのクラスの…野島?田島?が華恋に告白したんだって!有り得なくない?あの芋男、なんで華恋と付き合おうとしてんの…」
「この前見ちゃったんだ、放課後、リンが泣いてるところ。なんか…浮気?されたらしい!」
誰かの秘密を簡単に喋る、悪口や噂話は日常茶飯事、人の恋を面白がる。
それは、玲杏と仲が良かった頃にわかったこと。
___でも、わたしは玲杏と離れられなかった。
わたしには、玲杏しかいなかった。
このクラスは玲杏が中心に動いている。特に女子は。
話についていけなくなるのはもちろん、
学級委員やその他諸々のリーダー、班長などを務めているので、授業や成績表に支障が出る場合もある。
必要事項を伝えられなかったら、それこそ終わりだ。
だから、みんな玲杏と仲良くする。
その輪の中に入らずに、最低限の会話しかしない人はいるけど、反抗する人なんて一人もいなかった。
怖いと思っても、変だと思っても、それは毎回飲み込む。
「これが友達ってものなんだ」と、言い聞かせてきた。
玲杏の明るさにしがみついていた。
あの子が私を連れて行ってくれるから、わたしはこの「中学」というあたらしい世界で生き延びることができた。
でも、そんな彼女は今、わたしを敵のように扱っている。
私が、彼女の“好きな人”に好かれてしまったから。
玲杏にとってはただの「うざいやつ」かもしれない。
けれど、私にとっての玲杏は「たった1人の親友」なんだ。
玲杏と一緒に過ごさなくなってから、玲杏に無視されるようになってから、私の学校生活は毎日苦しい。
お願い、玲杏。
私は、晴翔くんより玲杏の方が好き。
玲杏とまた、話したい。



