「おはよう、玲杏!」


今日こそは、挨拶しよう。
そう意気込んだ月曜日の朝。


玲杏の友達・ 平井紗綾(ひらいさあや)と喋っていた玲杏に、そう話しかけた。


…返事は、なかった。



酷く冷たい顔に、ゴミを見ているのかと思うほどの顔。

「早く行って」と言うように、でも一言も喋らない玲杏を見て、「あ、だめだ」と思った。



やっぱり、玲杏は晴翔くんのことを恨んでるんだ。

でも、なんで?

嫌なら嫌って言えばいいじゃん。

わたしも最初は断ったけど、玲杏が「行って来なよ」って背中を押すから___



言い訳は、止まらない。


玲杏と紗綾が、わざと聞こえるように話し始める。

「地味なくせに男受けはいいよね」

「友達の好きな人に媚び売るとか終わってるでしょ!」

「いや、友達じゃないって、あんなやつww」



“地味”。
“あんなやつ”。
“友達じゃない”



___私たちって、友達じゃなかったんだ。



心が折れそうになって、目頭が不意に熱くなって。
ここは学校だ、と堪えようとしても、ぽたりと水滴は頬を伝って零れた。



わたしが奪ったわけじゃない。

晴翔くんから、誘って来ただけ。

それを、玲杏が許可したから。


そんなこと、玲杏に言えるわけがなかった。



こうして、わたしと玲杏はその日から「クラスメイト以下の関係」になった。


ぎゅっと、教科書を握る。



苦しい。
この思いをぶつける方法は、何もなかった。