晴翔 side
俺は正直言うと、咲久が好きだった。
静かで、優しくて、無垢なところ。
全部「かわいい」と思って、1人の男として守りたくなった。
でも。
玲杏は「顔」がタイプだった。
ヒステリックになるところも、うるさいところも、自慢や噂話ばっかりでも、その美しく整った顔さえ見れば、全てどうでも良くなるんだ。
周りの奴らも、きっとそう思ってるんだろうな。
玲杏は、そういうヤツだ。
可愛くて、うるさくて、それでいて憎めない。
だから、俺は近づいた。咲久に。
咲久と玲杏の友情が、音も立てずに壊れていく感じ。
あれを見ているのが、快感だった。
ギグシャクした空気、ピリピリと痺れる緊張感、疑心暗鬼になって何も信じれなくなる様子が。
それを生み出したのは俺自身だ、とわかっていたのに。
結局、咲久と玲杏の友情は戻らないほどまで、赤い糸はズタズタに切れてしまった。
無責任だった。
玲杏と付き合い始めてからは、周りからは羨ましがられ、彼女を持ってない友達に自慢する毎日。
でも俺は、玲杏が求めているのは「俺」でもなく「愛」でもなく、ただただ「周りに注目されたい」という承認欲求だと、知っていた。
咲久はそれを全然理解していなくて。
優しくて、真っ直ぐで、でも不器用すぎた。
俺は、そんな咲久の弱さを嘲笑うように玲杏を抱きしめた。
その体は確かに暖かくて、俺は少しでも“幸せ”になることができた。
友情を壊してまで得る幸せは、どことなくもやりと心の中に広がった。
ある日の放課後、玲杏は甲高い声で叫んだ。
“あんたなんか大嫌い”と、涙をこぼしながらかばんを荒く取り、教室を出て行った。
泣きながら腕を振り解く姿は、ただ演技にしか見えなくて。
きっと玲杏は、「玲杏、ごめん、俺が悪かった!」と追いかけてくれるのを望んでいるだけだ。
俺はクズだけど、どこか玲杏は俺を信じてくれている気がした。
今も、玲杏と付き合っている。
放課後は玲杏の買い物に付き合ったり、デートに行ったり。
LINEして、写真を撮って、それをインスタにあげて。
周りに見せびらかす日々は、そう遅くないうちに苦痛になっていった。
咲久のことを思い出すたびに、心がざらつく。
レアなあの子を選んで、咲かないあいつを壊したのは俺だ。
きっと咲久は、もう俺なんかに咲く気はないだろう。
あの透明な、純真無垢な目で、心で、こちらを向いてくれることはない。
レアなあの子と咲かないあいつ。
そのどちらにも手が届かなかった。
今日も玲杏のLINE画面を見ながら、打ち返していく。
送信して5秒も経たずについた既読を眺めながら。



