莉緒 side
うちらのグループって、正直、派手だったと思う。
玲杏と紗綾がいて、あたしはその少し後ろをついて歩いてた。
特に目立ちたいわけじゃなかったけど、誰かといる方が楽だし、ひとりでいると不安になっちゃうから。
でも、最近、思い出すのは咲久のこと。
あの子って、最初はマジで空気みたいだった。
静かで、大人しくて、リアクション薄くて、正直なんか話しかけづらかった。
でも、玲杏と一緒にいるときの咲久は、ちょっとだけ違って見えた。
静かだけど、優しそうで、話をちゃんと聞く子だった。
「あ、いい子だ」って、あたしは思った。
でも、あの日から空気が変わった。
玲杏が咲久のことを
「ウザい」「重い」「あの子、絶対自分のこと可愛いって思ってる」「媚び売り咲久様」
って言い出して、それにみんなが笑ってた。
あたしも、笑った。ノリで。
ーーでも本当は、よくわかってた。
玲杏が好きだった晴翔くんが、咲久を誘ったこと。
玲杏が、傷ついてるってこと。
そしてそれを、うちらの笑いで誤魔化してるってこと。
咲久の悪口を言うことで、なんとか発散しようとしているってこと。
それでも、何も言えなかった。
玲杏がヒステリックになるの、正直何回も見てたから。
ある日の放課後、教室で玲杏が咲久に怒鳴った日ーー
机の影から聞いてしまった。
「仕方なく一緒にいたんだよ!!」っていう玲杏の叫び。
そのとき、あたしは笑えなかった。
咲久の目が、ただまっすぐだったから。
泣きそうでもなく、怒ってもなく、呆れているわけでもない。
ただ何かを終わらせようとしてるみたいなーーそんな目だったから。
玲杏と話す時間は、楽しいけど息が詰まる。
少し「逸れた道」を歩いている気がして。
みんなはまだ咲久のことを“ああいう子だったよね”って話すけど、
あたしはそれにちゃんと頷けなくなってる。
あのときの咲久の背中は、本当はすごく強かったから。
何かを「覚悟」して、何かを「守り」たくて、それでも何かを「捨てる」選択をして。
もし、あの日の出来事に名前をつけるとしたらーー「友達と他人のすれ違い」って呼ぶんだと思う。
すれ違って、二度と戻らない。
でも、それはどっちかが悪いってわけじゃない。
ただ、タイミングと気持ちと、言葉が足りなかっただけ。
.....そんなこと、咲久にはもう言えないくらい、離れてしまったけど。
教室の大きな透明の壁を見つめながら、あたしはふっと息を吐いた。



