「アゼンタイン侯爵令嬢と呼ぶのが長いからフィリップ王子殿下にはエレノアと呼んで頂いています。お祭りはハンスと行きました。レイモンド、あなたはライバルがいなくなれば自分が愛されると思うタイプの人間ですね。その考え方は、一夫一妻制のサム国の方が持つ特有の考え方な気がします。私は一夫多妻制の帝国の価値観が染み付いています。私の父は5人の妻がいて3人の情婦がいました。ちなみに私はその8人の子供ではなくメイドの子です。父は誰のことも好きではありません。妻や情婦の人数が増えたり、減ったりしても何とも思わないでしょう。私もそんなものだと思っているので、ライバルがいないなら自分が愛されるなどという価値観に違和感がありました。私は、たとえこの世界のあなた以外の男性が息絶えてもレイモンドを好きになることはありません。帝国では婚約は政略的なものばかりで婚約期間も長いです。アラン皇帝陛下など6歳でアーデン侯爵令嬢と婚約しているので12年の婚約期間です。当然、当人の気持ちなど関係なく婚約は成立しますし簡単に婚約破棄などできません。サム国では婚約期間は1年くらいが妥当だと聞きました。みんな成人してから婚約するそうで、一夫一妻制のためお互いの気持ちを通わせて結婚するケースが多いそうですね。アゼンタイン侯爵夫妻がレイモンドとの年齢差や幼くして私の結婚相手が決まってしまっていることを毎日のように心配してくれるのです。だから、婚約破棄させて頂けるならお願い致します」

私はレイモンドが無駄な期待をして、落胆しないように婚約破棄を申し出た。
そもそもなぜ彼が私との結婚にこだわるのかが理解できない。