「アゼンタイン侯爵令嬢、運ぶのを手伝わせてくれるとありがたいのですが。

エレノアが50冊以上の本を重ねて持って階段を上がっているのが見えた。
孤児院の野良猫という呼び名で彼女を侮辱する無礼な人間もいるし、いじめられたりするのだろうか。

「フィリップ王子殿下!」

エレノアは僕の姿を見ると、顔を赤くしてふらつき全ての本を落とした。
彼女の立ち居振る舞いはいつだって完璧なのに、僕の前だけ挙動不審だ。

彼女はサム国の貴族令嬢では誰も太刀打ちできない見惚れる程美しい完璧な帝国の高位貴族の振る舞いを身につけている。
4歳にはサム国の孤児院にいたのだから、それまでに身につけた立ち居振る舞いということだ。

アゼンタイン侯爵が孤児院から養子をとったと聞いた時は驚いたが、彼女を見て腑に落ちた。
エレノアはどうしてサム国の孤児院にいたのだろう。

「申し訳ございません。お怪我はございませんか?」
エレノアがしゃがみ込んで必死に本を拾っている。