「その通りです。確かにカルマン公爵邸は高い塀に囲まれていて帝国の要塞と呼ばれていました。私は逃げ出したいと思っても、とても逃げられないとその塀を見ては絶望していました。刑務所にするには向いている造りはしていますね。しかしながら、母親の実家を刑務所にするなんてアラン皇帝陛下はやはり恐ろしい男です。アーデン侯爵令嬢のような女神のような方ならば、慈悲深く彼の側にいられるのでしょうね」

私の帝国での悪夢のような日々を終わらせてくれた、エレナ・アーデンのことを考えると胸が熱くなり私は思わず胸に手を置いた。

「エレノアはアーデン侯爵令嬢のことが好きなのですか? もしかして、そちらの方なのですか?」
レイモンドが私の様子を見るなり、少し驚いた顔をして尋ねてくる。

帝国の貴族は表情管理を厳しくて徹底しているのに、サム国の貴族は王族である彼でさえ表情が豊かだ。
サム国のそんなところも、私は気に入っている。

「レイモンド、そちらの方という言い方は適切ではありませんよ。言葉遣いも注意してくださいね。もしかして私があなたを好きにならないから、きっと私は女が好きなんだとでも思っていますか?だとしたら自意識過剰が過ぎますよ。実は、私を助け出してサム国まで逃してくれたのがアーデン侯爵令嬢なのです。彼女は私と初めて会った日の夜に私を誘拐してくれました。多くのリスクを負いながらも初対面の私を助けてくれて、私がサム国で生きるための道も用意しておいてくれました。私は彼女の提案を全く聞き入れず、孤児院に行くという決断をしたので嫌われたかと思ってました。でも、彼女はまだ私のことを気にかけてくれていたのですね」