「彼女はカルマン公爵家の失墜と共に御役御免になったので、エレナ様が逃して今は自分の人生に戻っていますよ。どうするんですか?この後もう1カ国は今日中に帝国領にしたいので、帝国に戻るなら今すぐ俺と一緒に来てもらいたいのですが⋯⋯」
ダンテ様はガーデンテーブルを指でトントンと叩いている。

お茶を用意したのに、一口も口をつけていない。
毒を盛られていると怪しんでいる感じはないし、本当に急いでそうだ。

「私はサム国に残ります。私に幸せな気持ちにしてくれた国だからです。私がサム国への侵略をやめて欲しいと頼んでも無駄ですか?」

私はダンテ様を誘惑するような甘い声で聞いてみた。

「カルマン公爵家の女怖すぎです。一瞬、サム国を見逃してあげようかと思いました。頬に口づけしてくれてもエレノア様の言うことを聞くわけにはいきません。愛する陛下とエレナ様のご用命なのでサム国もいずれ侵略しますよ。では、私はこれで失礼致しますね」
足早に立ち去り馬車に乗ったダンテ様の後ろ姿を見送る。

フィリップ王子の言う通り、侵略に手間のかかる国民性を持つサム国は後回しになっているだけのようだ。

「エレノア、あなたはもしかして帝国のスパイですか?」
私に的外れな問いかけをしてくるレイモンドにため息が漏れた。