「正体を暴露されても良いのですか? 私の婚約者にならないというのなら、あなたが帝国のエレノア・カルマン公女であることをバラしますよ」

王太子殿下の言葉に腹わたが煮えくりかえる。

何の憂いもなく育ってきて国のことも考えず女遊びに夢中な王太子に、この身を自由にされるほど私は落ちぶれていない。

力強く私を抱き込んでいて、私が押し返そうにもビクともしない。

私には彼を遠ざける命令を下せる魅了の力があるが、その力を持っていることまで万が一バレてはならないので使わない。

「どうぞ、ご勝手になさってくださいな。エレノア・カルマン公女は帝国に健在ですのに、彼女を偽物と言い目の前にいる孤児院出身の少女を本物とおっしゃるのですね。アゼンタイン侯爵家への侮辱だけではなく、帝国も敵に回したいのかしら。帝国の現皇后陛下もカルマン公爵家の出の人間だということをご存知ないのですか?」

私がサム国に逃げた後、私の実家であるカルマン公爵家はすぐに私の替え玉をたてた。
帝国の要塞とも呼ばれるカルマン公爵家から娘が誘拐されたなどと噂がたってはまずいからだ。

「私はエレノアを知った瞬間から、他の女性に興味がなくなりました。あなたの言う所の奉仕活動も今日でお終いに致します」

私の紫陽花色の髪に指を通しながら殿下が私を見据えて囁く。
これ以上私の髪にこの男が触れることを許したくはない。

「それは、私が可愛いからですか?」