「ビアンカ様に、私は高熱でここ3年の記憶がないことを伝えてくれない?」
私は彼女に外に出てきて欲しかった。

彼女が私にどう思われたかを気にしているのではなくて、自分がしたことにショックを受けていることは分かっている。
それでも被害者である私が全く誘拐事件を覚えていないということにすれば、気が軽くなるのではないだろうか。

「そんな都合の良い記憶喪失の仕方はないだろう。姉上のことは気にしなくて良いよ。あんなことをして普通なら罪に問われるところを不問になっているんだ」

ハンスの言葉に私は納得が行かなかった。
私はレイモンド王太子がどんな人間なのかも、ビアンカ様がどれだけ優しい方なのかも知っている。
20歳になったビアンカ様が表舞台に出てこないことで、王太子殿下のお手つきになって婚約者に選ばれなくて引きこもったと噂になっている。

他の男と婚前交渉をした疑惑のある貴族令嬢に縁談の話など来ない。
幸せな結婚をして優しい母親になっていたはずの彼女の人生が王太子殿下の不誠実な行動によって、メチャクチャになろうとしているのだ。

「私はビアンカ様を被害者だと思っているのよ。王太子殿下は今は他のお気に入りに夢中みたい。国民を守るべき人間が多くの人を気まぐれに弄んでいる。許されることではないわ」

私は婚約者として、この2年間レイモンド王太子と最低限の交流は持った。
会っている時は、彼に寄り添う従順な女のふりをした。