「エレノア、あなたは大事な子なのよ。全く、サム国もアツ国のように12歳以下の子に手を出したら罪になる法律を作るべきね」

彼女が私を優しく抱きしめてきて、その温もりに涙が出そうになる。
サム国にきて、この家族の一員になれて、大切にされて私がこんな幸せな気持ちになれる日が来るなんて思ってもみなかった。

「そうですね、お母様。サム国の人間は周辺諸国より自国の法が優れていると思っていますが、必ずしもそうではありません。帝国はアラン皇帝陛下に代替わりし、帝国法は全改定しました。サム国の法律も見直した方が良いかも知れませんね」

私は4歳の時に皇宮で当時皇太子だったアラン皇帝陛下に会っている。
彼は自分が皇帝となると同時に法律を全改定した規格外の人間だ。

それと同時に紫色の瞳が皇族の血が濃いという神話に何の根拠もないことを発表した。
700年以上信じられてきた神話を否定できたのは彼が紫色の瞳をした皇帝だったからだ。

4歳の時、私は彼と会って恐怖を感じた。
彼の周りの人間が下っ端の使用人に至るまで、彼を慕い尊敬し愛していた。
誰からも好かれるというあり得ない現象は集団洗脳状態にも見えた。

当時6歳の彼にはエレナ・アーデンという婚約者がいたが、私は彼に取り入ることを父から望まれていた。
エレナ・アーデンと彼は年が離れすぎていて、年の近い紫色の瞳の私の方が相応しいと父は言っていた。
父は私の隠している能力に気が付かないだけでなく、彼の恐ろしさもわからない愚か者だった。

「エレノア、前から思っていたのだけれど、あなたアカデミーに通ってみたらどうかしら?あなたほど政治や経済に興味を持っていて聡明な女の子はサム国中探してもいないわよ。もし、王太子殿下と結婚しないことになっても侯爵家の後継者になるという選択肢もできるわ」

侯爵夫人の提案に私は驚いた。
なぜなら、侯爵家には7歳のルークがいる。

彼は血のつながったアゼンタイン侯爵と侯爵夫人の子供だ。
当然、彼が侯爵家の跡取りになると考えていた。