自分がスパイを送り込み、会話を盗聴するような真似をしていたくせに自分の会話が盗み聞きされているとは想像しないのだろうか。

「深い関係と言えるようなことはエレノアに禁止されてできていませんが、もっと大人の口づけもしたことがありますよね。帝国からアーデン侯爵夫妻が来られた時は、エレノアから私に口づけをしてくれたではないですか」

彼は既にもっとすごい深い口づけをしたのだから、もったいぶるなよとでも言いたいのだろうか。
私が言いたいのはそんなことではなく、周囲に見られているリスクを考えろということなのに通じていない。

「私の言葉が理解できないのであれば、誓いの口づけは頬にしてください。それから、帝国の首都に行く際は、私は今あなたが見ているエレノアではなく帝国の高位貴族の演技をします。あなたが苦手であろう気位の高いキツい感じのする演技です。あなたにも帝国の貴族達に舐められないように、完璧な振る舞いを馬車の中でみっちりと身につけてもらいます。まずは、今の2倍くらい遅く優雅に話すことを心掛けてください。早口で話していると本当に元王族かと出身を疑うような声がではじめます」

サム国は貴族も含めてとても自由でマウントをとってくるような人がいなかった。
帝国の首都にいるような貴族は常にその立ち居振る舞いから、自分の上か下か程度を見て接し方を変えてくる。

「もしかして、エレノア・カルマン公女の演技ですか。是非、馬車の中からその演技してください。実は、あの誘惑してくるような魅惑的な魅力に溢れた悪女のエレノアが一番大好物です」
彼が言っているのは、私が皇族専属娼婦として育てられた時に身につけた演技だ。