「王宮であのひったくり犯はまだ保護しています。だから、大丈夫ですよ、エレノア」
レイモンドはよく私に大丈夫だと言ってくれたが、その時は本当に大丈夫だった。
だから、彼がそういうのならば大丈夫だと心から安心できた。

薬を入れてくれたというグラスを掴もうとしても、手が震えてしまう。

「エレノア、良かったら口移しで飲まして差し上げましょうか?」
レイモンドが言った言葉に震えが止まった。
そのような恥ずかしい真似ができるわけがない自分で飲もう。

私は一気にグラスに入った薬を飲み干した。
「即効性があるから何が変わったか分からないかもしれないけれど、もうこの瞬間からあなたの魅了の力は消えているわ」
アーデン侯爵夫人が優しく私に語り掛ける。

「わかります。私の魅了の力が消えたということが」
私の言葉にアーデン侯爵夫妻は驚いたように顔を見合わせた。

会ったこともない天才の男の子が薬を作り、長い時間かけて治験をし、遠いところから私を安心せるために最強の魅了使いがわざわざ持ってきてくれた薬が効かないはずがない。

「レイモンド、あなたを愛しています。私と結婚してください!」
私はそういうと、隣にいた彼の唇に軽く口づけをした。