「エレノア・アゼンタイン侯爵令嬢、あなたと踊れる光栄を僕にいただけますか?」

私は目の前にきたフィリップ王子に驚愕した。
私が魅了の力を使って、彼を呼んでしまったに違いない。
聡明な彼のことだ誰に言われなくても、私と接触しないようにした方が良いことは分かっているはずだ。

周囲の視線が一気に私たちに集まるのがわかる。
踊ってはいけないと分かっていても、プラチナブロンドから覗く彼の海色の瞳を見ていたら衝動を抑えられなかった。

私は気がつけば彼の手に自分の手を重ねていた。

「エレノア、そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫ですよ」
踊り出しながらも、不安そうな顔をしていたのか王子殿下が声を掛けてくれる。

私はハンスの歌ではないオーケストラの演奏の中、大好きな王子様と踊っているのだ。
彼の輝かしい評判を落としてしまうことになるとわかっていて、感情を抑えられないお姫様のふりをした野良猫だ。

「実はダンスがとても上手ですよね、エレノアは⋯⋯」
彼に言われた言葉に、私が初めて彼と踊った時に緊張しすぎて彼の足を踏みまくったことを思い出した。

「あの時は、本当に申し訳ございませんでした。骨を何本か折りましたよね?」
私は恐る恐る彼に尋ねると彼は今まで見たことのないような眩しい笑顔を返してくれたあと、私を引き寄せ耳元で囁いた。