「今、嘘をつきましたね。エレノア・アゼンタイン」
私は扉ごしに聞こえるレイモンドの声に震え上がった。
彼に二度と嘘をつかないと、この名において宣言したばかりだった。

私は慌てて扉を開けると、レイモンドが部屋に入ってきて扉を乱暴に閉めた。

「あの、エレノア・アゼンタインというのはどなたのことでしょうか⋯⋯私はエレノア・カルマンと申します」
自分の名に誓ってまで嘘をつかないと約束をしたのに、嘘をついてしまった。
彼が怒っているのかと思い、怒られるのが怖くて咄嗟に厳しい言い訳をした。

怖くて彼がどんな表情をしているのか見れない。

私は彼の腕を引っ張って、ベッドに座らせ自分は彼の膝の上に座った。

「もしかして、私が怒るようなことをさせてしまいましたか? どのようなことをしたらあなたの怒りを沈められるのかしら?」
私は彼の瞳を見つめながら、彼の胸にもたれかかり彼の顔を撫で回しながら囁くように伝えた。

「怒ってなどいません⋯⋯ただ、心配で。寝巻きとても似合っています、用意しといてよかった」
明らかに彼が動揺しているのが分かった。

私から目を逸らし、少し震えている。
そして今着ている寝巻きは彼の趣味で彼が用意したものだということが分かった。

「心配してくださっているのですか、私のことを⋯⋯」

彼の黒髪に指を通しながら告げた言葉に彼は掠れた声でこたえた。
「赤い薔薇を嫌いだと言っていたのに、赤い薔薇の花びらを浮かせたお風呂に入られられたと聞いたから⋯⋯」
彼の言葉に本当に私のことが心配で彼が部屋に来たのだと感じた。