彼の表情管理はまるでなっていない。
その程度の感情の隠し方で彼は自分の本心が私に漏れないとでも思っているのだろうか。
彼は私がどれだけ人の顔色を伺いながら過ごしてきた子か知っているようで知らないのだ。

ハンスがいくら私に対して興味がないと言っても、彼が私を好きで大切にしようとしていることがわかってしまう。
「私の良き理解者のハンス・リードの言うことに従いところだけれど、、身分社会で私の方から王太子との婚約を破棄することはできないわ」

私は自分自身に「王太子の婚約者」という新たな足かせがはめられたことを嘆いた。

ハンスもフィリップ王子と同じく明らかに貴族という生まれとは思えないくらい純粋な人だ。
だから彼がいくら私を思ってくれても、優しくして私を姉以上に気遣ってくれても心を許してはいけない。
心を許した瞬間、彼を求める私が安易に想像できるからだ。

彼を求め、彼に期待し、魅了の力で彼を壊す。
そんなところまで、まるで目の前で起こっていることかのように想像できて苦しくなった。