「私が王宮で教えますよ。私の飛び抜けた能力が好きだと言っていたでしょう。フィリップの教科書をのぞきましたが、驚く程簡単でした」

さっきの話はまともに聞いてくれていたようだ、私が好きだと言ったところを見せようとしてくれて嬉しい。
雨の雫を拭いてもらって、申し訳がなくなり私も自分のハンカチを取り出し彼についた雨の雫を拭きはじめた。

「優しいエレノアが戻って来ましたね。最近、出現率の高かった婚約破棄を強いるエレノアも可愛かったですが優しいエレノアは最高に可愛いです」

レイモンドは女の気を引く天才なのかもしれない。
流石、優秀な頭脳を活用し浮き名を流しまくって来ただけはある。

彼のことを好きではないはずなのに、思わずドキッとしてしまった。
そっと彼の顔を覗き見ると、彼の海色の瞳にときめいているような顔をした私が映っている。

「到着しました、エレノア、運びますね」
レイモンドの運ぶという表現に少し吹き出しそうになった。

それにしても、侯爵邸から王宮まで30分近く私と彼は無言でほとんど見つめあっていた。

彼の海色の瞳が綺麗で好き過ぎて、見つめ続けてしまったのだ。

私はレイモンドが海に連れて行ってくれるまでは、海の色を知らなかった。
だけれどもレイモンドとフィリップ王子の瞳の色が海の色と言われているのを聞いてこんな色なのかと想像していた。

やはり最近は色々世界情勢の急激な変化により国内の様子も変わっているから、その対応に彼も疲れているのかもしれない。
いつもなら馬車の中でもどこにいても、彼はひたすらに私を口説いて来ている。

「レイモンド、待ってください。歩けます。申し訳ございません。歩けない設定は嘘でした⋯⋯」
私は王宮内の人目の多いところで、お姫様抱っこされるということを避けなければと思い慌てて彼に呼びかけた。