「私の初恋の人を侮辱しないでください。アーデン侯爵令嬢が薬を作れるような優秀な男の子をお身内にひき入れたのには理由があります。実は彼女の母親ミリア・アーデン侯爵夫人は誰より強い魅了の力を持って生まれてしまった方なのです。カルマン公爵家では紫色の瞳に生まれていない女の子は皇族が欲しがらないので通常殺されます。しかし彼女はとんでもない広範囲で強い魅了の力が使えることが生まれてすぐに分かったので、赤い瞳を持ちながら生かされました。しかし、そんな恐ろしい力を持って生まれたことが本人に伝わってしまっては恐怖で命を絶たれてしまうかもしれません。そこで彼女には魅了の力を使えることは伝えられず、彼女の精神を恐怖により支配し魅了の力を使わせて周りを操らせようという手段が取られました。公爵の命令に背くと酷い虐待にあうという恐怖心です。13日間監禁されたこともあると聞きました。しかし、部屋に閉じ込められている彼女がお腹が空いたと思うだけで、外にいる男性の使用人は食事を持っていくので問題なく過ごせてしまうのです。彼女はカルマン公爵家の最終兵器として、政敵であったレナード・アーデン侯爵の元に婚約者として送り込まれています。アーデン侯爵家の人間は歴代アカデミーの首席卒業生ばかりで知能が高いせいか魅了の力にかかりません。しかし最終兵器である彼女ならば彼を操れるのではないかと思われていました。アーデン侯爵は彼女と婚約した瞬間から彼女を花嫁修行と称して自分の邸宅に囲い込みました。とても危険な行為です。しかし、やはり天界の王子様が悪の公爵家に負けることなどはありませんでした。囲い込むことで彼女の恐怖心を一切取り除いてしまったのです。そのことでカルマン公爵家は最終兵器を失ってしまいました。でも彼女の魅了の力が消えたわけではありません、きっと私とは比べ物にならない程、多くのことに苦しんでいると思います。お母様のそんな姿を見てお優しいアーデン侯爵令嬢が何もしないはずがございません。お母様が魅了の力を持っていることが露見すれば、周りから警戒されます。薬を作れる天才的な子を身内にひきいれてお母様のための薬を作ろうとなさったのでしょう。彼女はいつだって人の為に動く人です。自分のことしか考えられないあなたとは違うのです」

レイモンドが驚いたように私の話を聞いていた。
自分がいかに何も知らずに人を侮辱していたかに気がついたのだろう。