逃亡した帝国の公女は2人の王子に溺愛される。

僕とエレノアが一緒になれる可能性があるとしたら、サム国から離れるしかない。
父上が彼の兄の婚約者と結婚したことは、サム国はじまって以来の憶測をうむゴシップとなった。
息子の僕まで兄の婚約者を欲したら格好のネタになる。

噂がたつだけで恥と思われるほどサム国の貞操観念は強く、疑わしいことは全て事実のように言われてしまう。
そんな国民性であることを知りながら、噂も気にすることなく自由に振る舞い王家の評判を落とし続けたのが兄上だ。
身内ながらも彼のように思慮の浅い男にエレノアが守れるとは思えなかった。

「お忙しいところ、お手を煩わせてはいけませんので、ありがたいのですが私は⋯⋯」
エレノアが言いかけた言葉に僕の申し出を断ろうとしていることがわかった。

「エレノア、筋力トレーニングをしたいので馬車まで送らせて頂きます」

僕は自分でも信じられないが、気が付くと彼女をお姫様抱っこしていた。
今までにないくらい、彼女の顔が近い。

そして、前のように顔を赤く染めて僕をまだ想ってくれるのがわかって安心した。

筋力トレーニングをしたいなんて言い訳は、エレノアが前に取り繕うにいっていたものにそっくりだ。
僕がこんなことをするのはおかしいと思われるかも知れないけれど、そんなのは彼女に拒絶され、一緒にいる機会を減らされるよりはずっとましだ。