それに帝国の要職試験を受けに行くというのは、エレノアの将来にとって良いアイディアだ。

要職試験を受けて合格してしまえば、彼女には帝国の爵位が授けられ王族という地位を失った兄上との婚約などエレノアの方から解消できそうだ。
優秀で勤勉で人を惹きつける魅力のあるエレノアならきっと合格する。

「帝国の中枢からサム国の民を支えるということね。倍率が高そうだけれど私も頑張ってみようかしら」
エレノアが見惚れるほど目を輝かせる。

ハンスは本当によく彼女を知っている。
彼女は常に国内ではなく世界全体を見ている。

そして彼女は誰よりもサム国の民の幸せを願う人なのだ。
帝国からサム国の孤児院にいた彼女の理由が気になるけれど、僕の国を好きになってくれた僕の愛する人だ。

兄上に傷つけられているなら婚約を解消を手伝うだなんて愚かな提案だった。
傷つけられていたとしても、彼女は僕にそんなことを打ち明けてくれない。

彼女は我慢強いから秘密を打ち明けてくれないのだと言い訳し、彼女の信頼を得られていないことに向き合えていなかった自分を恥じた。

「僕も次回の帝国の要職試験を受けてみようと思います。エレノア、ハンス一緒に頑張りましょうね。エレノア、今日も兄上が迎えにきていそうですね。馬車まで送らせてください、少しでもあなたと話したいのです」

小さな可能性を僕は見つけてしまってそれに縋るように、エレノアを見つめた。
久しぶりに見た彼女の照れた表情にほっとする。