「エレノア、兄上がどんな方なのかは僕が1番知っています。あなたが傷つくのだけは嫌なんです」

僕は兄上のように女性を快楽の対象としか思っていない人間に、エレノアを渡したくなかった。
エレノアは女性とか性別に囚われるような存在でもない、僕にとっては身内などどうでも良くなるくらい唯一無二の幸せにしたい存在だった。

そもそも8歳も年下の弟の初恋の相手だとわかっていながら、笑って奪った兄上の人間性を信用できない。
自分の兄ながら畜生以下の人間性を持つ人間が、彼女を傷つける未来は想像できても幸せにする未来を想像できなかった。

「私が傷つくことはないのでご安心ください。フィリップ王子殿下は優しすぎるところがありますよ。臣下である私の心など気にせず、ご自分の目的に邁進してください」

エレノアの言葉を聞くたびに、彼女は僕の臣下でありたいのだと認識する。
彼女に自分の臣下でなどあって欲しくはない、誰とも代わりのきかない大切な女性を見つけたのに近寄れなくて頭がおかしくなりそうだった。

「エレノア、帝国の要職試験に受かると帝国の爵位が貰えて衣食住一流のものが用意されるんだぜ。次回の試験受けに行かないか?」
突然、ハンスが言った言葉に僕は驚いた。

王族である僕の前で、サム国を見限った発言をさらりとしてしまうところも彼らしい。

しかし、多くのサム国の民がまだサム国だけは帝国の侵略とは無関係だと考えている中で彼は先見の名がある。
どんなにあがなっても数年後にはサム国は帝国領になるだろう。